座布団

「今日紹介したいのはこれです」
「なんだ、座布団じゃないか」
ニコニコと営業スマイルを携えたセールスマンが家に来た。普段なら追い返すところだが、今日の私は酒が入っており気分が乗っていたので、招き入れてみた。
「さすがご主人。アルコールが入っていてもなんら変わることのない慧眼をおもちで」
「能書きはいい。私はアルコールが入っていると気は変わりやすいのだ。早く紹介をしろ」
座布団ごときで大げさな奴だ。
「いやあ、すみません。それでは早速商品を紹介したいと思います。ご主人、何か重しのような物はございますか」
「それならここにちょうどいい物がある。この間街で買わされた何の役にも立たない岩がな」
思い出しても腹が立つ。名のある陶芸屋が作った骨董品だと言われて買ったはいいが、そもそも陶芸屋が岩を創るわけがないのだ。おかげで骨董集めの趣味はもう辞めた。定年退職をしてからの唯一の趣味がなくなったので、昼間から酒を飲んでいたというわけだ。
「ではこの岩もはじめて役に経つときがきたようですね。座布団の上に岩を置いてみます」
「ほう、これはすごい」
座布団から鋭い刃が出て、上にのしかかる岩の表面をえぐったのだ。
「だれも座布団に殺されるとは思わないでしょう。これは21世紀最高の暗器と一部では評判な代物です」
「これはすごい。あの岩を売った詐欺師をこの座布団の錆にしてやる。買いだ」
「ありがとうございます。それでお値段なのですが・・・・・・」
男が欲求した数字の額面に少し驚いたが、拳銃なんかを買うよりはずっと安上がりだろう。明日早速あの詐欺師をこの家に呼ぶことにした


後日、私は殺人の容疑で逮捕された。
「どうして座布団なんかで人を殺したんだ」
いくら刃が出る座布団でも、証拠までは消せなかったのだ。まったく、アルコールというものは怖い。元はと言えばあの詐欺師さえいなければ焼け酒なんかしなかったのだ。今度会ったら殺してやりたいと思ったが、もう既に私が殺していたので、なんだかどうでもよくなってきた。
「だって、だれも座布団に殺されるとは思わないでしょう」